マグネシウム――戦い続けるアスリートの必須ミネラル

【マグネシウム(magnesium : Mg)】

骨や歯を形成し、筋肉や神経の働きにも大きく関わる必須ミネラルのひとつ。生体の機能維持に不可欠な生体内で4番目に多いミネラルで、糖質や脂質の代謝、ミトコンドリア内のエネルギー代謝では「エネルギー通貨」であるATP(アデノシン三リン酸)の産生に関わり、たんぱく質や脂質などの生合成、遺伝子合成など生体内の300以上もの酵素反応に関与する補助因子として重要な役割を担っている。また、細胞内液中に存在するマグネシウムイオン(Mg2+)は神経や筋肉の興奮性を抑制し、神経伝達や細胞膜の安定性、筋収縮、心拍出、ホルモン分泌等にも重要な働きをもっている。

トライアスリートが、今、最も注目したい必須ミネラル「マグネシウム」。
筋ケイレン&筋疲労対策から、パフォーマンスアップまで、知っているようで知らない、その実力に迫る

監修・文=彦井浩孝 Text by Hirotaka Hikoi
写真=小野口健太 Photographs by Kenta Onoguchi

必須ミネラルのひとつとして、広く一般に知られる栄養素「マグネシウム」。現代の生活において不足しがちなミネラルでもあるが、ごく普通の日常生活よりもよりアクティブで多量の発汗や筋疲労などを伴うアスリートライフにあって、その役割は大きい。知っているようで、知られていない「マグネシウム」とアスリートライフの関係を本誌連載でもおなじみトライアスロン・サイエンスの第一人者、彦井浩孝さんに解説してもらった。

持久系アスリートライフと「マグネシウム」

運動やトレーニングを行う上でマグネシウムは絶対に欠かせないミネラルのひとつです。筋収縮、酸素摂取、エネルギー(ATP)産生、電解質バランスなど、運動に非常に関係のある生体機能における重要な働きを担っているため運動中に多く必要とされます。筋肉では、筋運動に必要なエネルギー、ATPの産生のためにマグネシウムが血中から筋細胞に取り込まれ利用されます。トライアスロンやマラソンのような長時間にわたる競技では特に後半で脂質の代謝が高まりますが、マグネシウムはこのとき脂質分解のために脂肪細胞でも取り込まれてエネルギー産生のために利用されます。マラソン直後の血中データを見ると、カルシウムや亜鉛などのミネラルには変化が見られなかったものの、マグネシウムには顕著な減少が見られました(※1)。これは血中のマグネシウムが脂肪細胞でエネルギー産生に利用されたことを示していると考えられます。

日常での不足に加え
レースや練習で深刻な欠乏も

また、高強度の運動や長時間のトレーニングを行う人では、汗や尿からのマグネシウム損失が大きくなり、高温多湿の環境下では発汗量も増えその損失はさらに大きくなるでしょう。尿中に排出されるマグネシウムの量は血中乳酸濃度と関係があり、運動後の血中乳酸濃度が高いほど尿中に排出されるマグネシウム量も多くなります(※2)。激しい運動による筋ダメージにより筋細胞からマグネシウムが失われ尿中に排出されることもあります。マグネシウムの摂取量が男性で260㎎ /日、女性で220㎎ /日以下の場合、体内のマグネシウム欠乏をもたらす可能性が高くなります(※3)。平成23年国民健康・栄養調査(厚生労働省)によると、20歳〜49歳の男性におけるマグネシウム摂取量は225〜241㎎ 、女性で184〜212㎎ となっており、2010年日本人の食事摂取基準(同)に定められている推奨量を約10%〜40%下回っています。これらのことから、長時間にわたり高温多湿の中で競技を行うトライアスリートの場合、すでに日常から深刻な体内のマグネシウム欠乏が起こっている可能性が高く、その影響を受けやすいと考えられます。加齢や減量にともない筋量が減少してマグネシウムの貯蔵庫が小さくなることも欠乏につながります(※6)。マグネシウムの欠乏は筋細胞内にカルシウムを滞留させ、細胞筋膜におけるイオン交換を損なうことで、筋の過剰な酸素消費や興奮を引き起こします(※7)。これが筋ケイレンや筋疲労などの原因になると考えられているようです。また、運動による酸化ダメージや酸化ストレスからの回復に必要な免疫機能にも、マグネシウムは重要な役割を担っています。激しい運動は活性酸素やフリーラジカルを増加させ、酸化ストレスを引き起こします。マグネシウムの欠乏は運動からの回復を遅らせ、酸化ストレスを増大させ、免疫機能をさらに低下させる可能性があります。酸化ストレスの増大は筋細胞の炎症を増長し細胞内のDNAのダメージをもたらします。長時間の運動は血中のマグネシウム値を低下させ、これは血中の免疫細胞の低下にも関係があると考えられます(※8)。このように、運動を行う上で非常に重要な働きを担っているマグネシウムが欠乏しないように、摂取不足には気をつけなければなりません。マグネシウムの豊富な食物をはじめ、サプリメントなども活用して体内マグネシウムの適正量を維持するように心がけるといいでしょう。

※1 Bochmanら、1998年 ※2 Deusterら、1985年 ※3 NielsenとLukaski、2006年 ※4 Lukaski、2004年 ※5 Orchardら、2014年
※6 NielsenとLukaski、2006年 ※7 Nielsenら、2004年 ※8 NielsenとLukaski、2006年

アスリートライフと「マグネシウム」をめぐるQ&A

  • トライアスリートの場合、日々、必要なマグネシウムの摂取量は?

    一般より10~20%多く、通常の食事に加え、毎日80~210mgの摂取が必要

    高強度の運動や長時間のトレーニングを行う人は、汗や尿からのマグネシウム損失が大きくなります。発汗量が多くなる高温多湿の環境下ではその損失はさらに大きくなるでしょう。高温多湿の環境における運動では1時間に1~2ℓ以上の発汗量があります。その汗の中に含まれるマグネシウム量は12~60mg/ℓと言われています(※9)これは日本人の食事摂取基準で推奨される摂取量のおよそ10%(20歳~69歳一般男性の場合)に相当します。また、尿中に排出されるマグネシウムの量は血中乳酸濃度と関係があり、運動後の血中乳酸濃度が高いほど尿中に排出されるマグネシウム量も多くなります(※10)。激しい運動による筋ダメージにより筋細胞からマグネシウムが失われ尿中に排出されることもあります。

    つまり、長時間にわたり高温多湿の中で競技を行うトライアスリートの場合、通常より多くのマグネシウム損失が起こることが考えられます。持久系の運動を行うトライアスリートやランナー、サイクリストでは通常より10~20%多くのマグネシウムの摂取を必要とします(※11)。2010年日本人の食事摂取基準で定められている推奨量より30~70mg程度多く摂取すると良いでしょう。日本人では一般男女においてすでに推奨量を約10~40%下回っているため、アスリートともなると通常の食事に加えて、毎日、80~210mgのマグネシウムをマグネシウムの豊富な食物やサプリメントで積極的に摂取を補う必要があると言えそうです(ただし、耐容上限量は成人の場合350mg/日)。

  • レース中の筋ケイレンとマグネシウムの関係は?

    未解明ではあるが、Mgの欠乏は大きな要因のひとつ

    レースやトレーニング中など運動時に起こる筋ケイレンは「運動誘発性筋ケイレン(exercise-associated musclecramps: EAMC)」と呼ばれ、発汗によるナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの電解質の損失が原因のひとつであると考えられています。長時間にわたるトライアスロンでは発汗量が多く、汗からの電解質の損失に気をつけなくてはなりません。マグネシウムの欠乏は、筋細胞や神経細胞の情報伝達に影響を与え、筋ケイレンなどの原因になると考えられています(※12)。しかしながら、運動中の筋ケイレン(EAMC)の原因についてはまだ不明な点が多く、マグネシウムなどの血中の電解質の不足に加え、他の要因が重なることでEAMCが起こる可能性も否定できません。筋力や柔軟性の不足(筋機能説)、筋疲労や中枢疲労による筋神経系の異常(筋神経系疲労説)や興奮や緊張、不安などの精神的ストレス(精神的ストレス説)なども関連していると考えられています。このように運動中の筋ケイレンは複合的な要因が重なって起こることが考えられますが、一般的にはマグネシウムの欠乏は筋ケイレンや筋疲労の原因になることから、運動時に不足がないよう、日ごろから摂取に気をつけておくことは賢明と言えるでしょう。

  • マグネシウム摂取が、競技でのパフォーマンスupにつながる可能性は?

    不足している場合はパフォーマンスupにも効果あり

    これまでの研究では、トライアスリートに4週間にわたりマグネシウムを摂取させた結果、糖質の利用を高めた一方で、血液の酸性化や過剰なストレス反応を抑え、トライアスロンにおけるパフォーマンスを高めたと報告されています(※13=下のグラフ)。しかしながら、マグネシウムが特に不足していないランナーに、マグネシウムをマラソン前の4週間にわたり摂取させたところ、パフォーマンスや筋ダメージへは何ら効果が見られませんでした(※14)。マグネシウムは免疫機能の維持や酸化ストレスの軽減に関連がありますが、体内のマグネシウムが適正な場合ではさらにマグネシウムを摂取したとしても、運動によって引き起こされる免疫機能の変化にはなんら影響は見られないようです(※15)

    これらのことから、マグネシウム摂取は体内のマグネシウム量が適切な場合ではそれほど効果は期待できず、むしろマグネシウムの不足している場合においてこそ有効であると考えられます(※16)。事実、マグネシウムのサプリメント(360mg/日)は血中のマグネシウムが欠乏していた場合において、トレーニングによる筋ダメージを軽減したことが示されています(※17)。加齢によって筋量や骨量が不足することによりマグネシウムの体内貯蔵量が減少しますが、12週間のマグネシウム摂取(300mg/日)が高齢者のパフォーマンスを高めたことから、加齢によるパフォーマンス低下を抑える効果のあることが報告されています(※18)。この場合も、通常の摂取量が推奨量を下回っている場合で、より顕著でした。

    マグネシウム摂取のパフォーマンスへの効果

    Golfら(1998年)の文献から図を作成
    3人のトライアスリートに4週間にわたりマグネシウム(420mg/日)を摂取させたところ(420mg/日)、トライアスロン(スイム500m)、バイク(20㎞)、ラン(5㎞)のタイムが、対象群(摂取なし)と比較して、それぞれ88%、98%、92%に短縮された
  • 食事だけでマグネシウムの不足は補えない?

    バランスの良い食事が理想だが、アスリートは欠乏のリスクも大

    マグネシウムは、海草、ごま、大豆、貝類、魚類、にがり、穀類、ココア、バナナなどの食物に多く含まれていますので、これらを偏りなく摂れていれば不足の心配はないでしょう。ただし、たとえばファーストフードや塩分の多い食事による過剰なナトリウム摂取などはマグネシウムの吸収を阻害するため、塩分の摂り過ぎには注意が必要です。どんな栄養素でも同じですが、ひとつの栄養素ばかり偏って摂取することのないように気をつけることが最も大切。バランスの良い栄養摂取を心がけていれば、どの栄養素もバランス良く吸収され、体内で有効に利用されるでしょう。

    ただし、先述のとおり、持久系の運動を行うトライアスリートやランナー、サイクリストは通常より10~20%多くのマグネシウムの摂取を必要とします。長時間にわたり高温多湿の中で競技を行うトライアスリートでは、発汗量も多く、さらに多くのマグネシウム摂取が必要と考えられます。P71コラムでも紹介したとおり、マグネシウムはよほど気をつけていないと摂取不足になる可能性の高い栄養素と言えそうです。したがって、アスリートであれば通常の食事によるマグネシウム摂取に加えて、日々、マグネシウムのサプリメントなどで積極的に摂取を補う必要があるでしょう。

※9 NielsenとLukaski、2006年  ※10 Deusterら、1985年 ※11 NielsenとLukaski、2006年 ※12 NielsenとLukaski、2006年 ※13 Golfら、1998年 ※14 Terblancheら、1992年  ※15 Moorenら、2003年 ※16 NielsenとLukaski、2006年 ※17 Golfら、1994年 ※18 Veroneseら、2014年 ※19 NewhouseとFinstad、2000年 

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